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コラム

eスポーツを用いた自治体の取り組みとは?具体的な事例を紹介

eスポーツ全般

近年eスポーツ業界は年代を問わず周知が広がり、市場規模は年々拡大を続けています。そんな中、eスポーツを自治体の取り組みに活用する動きが活発になってきました。

この記事では、eスポーツを用いた自治体の取り組みや活用事例について解説します、合わせて、eスポーツと自治体の活動がマッチしやすい理由や導入に際する課題なども紹介しているため、ぜひ最後までご覧ください。

eスポーツは自治体の取り組みと相性が良い

eスポーツはコンピューターゲームで勝敗を競う競技です。eスポーツにはさまざまな効果が認められることや今後の市場規模拡大が予想されることから、自治体の取り組みとしてeスポーツを活用する動きが増加傾向にあります。

自治体の取り組みは税金を用いて行われるため、地域創成や地域の活性化に紐づく活動であることが求められます。その点においてeスポーツの特性は自治体との相性が非常によいと言えるでしょう。

若者が楽しむ娯楽としてだけでなく、eスポーツには地域住民の交流や高齢者、障害者の支援、地域経済の活性化などさまざまな効果が期待されています。

eスポーツが自治体の取り組みに効果を発揮する理由

自治体の取り組みにeスポーツが活用されるのには、さまざまな理由があります。なかでも以下の理由でeスポーツ活用を前向きに検討する自治体が増えています。

理由1.インクルーシブ性が高い

自治体が目指すインクルーシブ社会とは、人種、年齢、性別、障害の有無などに関係なく全ての人がお互いを認め合い共生する社会モデルを指します。

eスポーツはコンピューターゲームを介して競う競技のため、人種、性別、年齢などに関係なく平等な条件でプレイできます。言葉が通じなくても、男女の体格差や性差があっても、高齢者でも幼児でも、平等な条件で競うことのできるeスポーツは、インクルーシブを考えるうえで効果的なスポーツと言えるでしょう。

理由2.リスクが低いから

取り組みに対するリスクを考えるうえで、スポーツは比較的怪我や事故のリスクが高いと言えます。特に、子どもや高齢者にとっては重大な怪我や事故を引き起こす可能性もあるため、自治体としてはなかなか取り組みにくい分野でもあります。

しかし、eスポーツは安全な室内で接触なく行えるため、事故や怪我といったリスクが非常に低いのが特徴です。もちろん、リスクが全くない訳ではありません。eスポーツを行ううえで重大なリスクとして考えられるものにゲーム障害があります。

しかし、先進事例ではゲーム障害に関わる問題が起こったことはなく、自治体の取り組みのなかにおいて回避しやすいリスクと考えられます。100%リスクが発生しない訳ではありませんが、他のスポーツに比べれば圧倒的に低リスクで取り組めるのがeスポーツの強みであると言えるでしょう。

理由3.幅広い分野に影響を与えるから

eスポーツが影響する分野は、ゲーム業界だけに限定されたものだと考えられがちです。実際は、ゲームソフトやゲーム機器に限らず、テレビモニター、デスクやチェアなども含むパソコンの周辺機器、イベントを行うならイベント運営会社、イベントに来場するターゲット層に対する広告など、幅広い業種に影響を与えます。特に広告に関しては、現状コカ・コーラや日清など日本の大企業もeスポーツスポンサーとして投資を行うほど効果が期待されています。

eスポーツを自治体の取り組みに活かすことは、地方経済の活性化に繋がるとの見立てをされることもあるほど有益な効果が期待されるでしょう。

eスポーツを活用した自治体による取り組みの現状

現状では、自治体の取り組みにeスポーツを活用しているケースは多くありません。東京の多摩島しょ地域に関してはeスポーツを活用した自治体の取り組みは全体の4分の1程度という調査結果が示されています。導入に際するさまざまな課題を鑑みたり、効果を試算したりするうえで安易に手を出せない状況であることは否めません。

しかし、年々eスポーツを自治体の取り組みに活用する動きが高まっているのは確かです。地域創成、障害者支援、高齢者支援など、インクルーシブに活用できるeスポーツはさまざまな分野で頭角を現し、今後もeスポーツを活用する自治体が増加することが予想されます。

参考資料:地域課題の解決に向けたeスポーツの可能性に関する調査研究報告書

eスポーツを用いた自治体の取り組み13事例

実際に、全国のさまざまな自治体がeスポーツを活用した取り組みを行っています。それぞれの自治体で行われたeスポーツの活用事例を紹介していきます。

東京都の取り組み事例

東京都のeスポーツを活用した主な取り組み事例には、高齢者支援、障害者支援、地域交流などが挙げられます。

1.【インクルーシブな地域作り】eスポーツシンポジウムの開催

東京都では2024年8月1日にこれまでのeスポーツを活用した自治体の取り組みによる研究結果を発表する「eスポーツを自治体で活用してみませんか?~インクルーシブな地域づくりに向けて~」シンポジウムを開催しました。

eスポーツによるインクルーシブル教育、ウェルビーイング、障害者支援、高齢者支援などの事例を踏まえた発表には、多くの自治体関係者の関心を集めました。

2.【地方創成・経済の活性化】東京eスポーツフェスタ

東京eスポーツフェスタは東京都が主催するeスポーツの祭典です。eスポーツの周知の他、eスポーツを通したビジネスの交流などが行われ、2020年に第1回目のイベントが開催されて以降毎年開催されています。

3.【高齢者支援】eスポーツによるフレイル予防

東京都西東京市では、eスポーツを用いた高齢者のフレイル(衰弱漏水)予防事業を行っています。「健康ゲーム講座」と題して、高齢者施設や高齢者クラブでeスポーツ講習会を開催し、eスポーツだけではなく、操作などに際する手指の運動なども含めて、高齢者が前向きにeスポーツを楽しめ、フレイル予防に繋がる取り組みを行っています。

ゲームに抵抗感があったり複雑な操作が難しかったりする高齢者に向けて、太鼓の達人やレーシングゲームなど、体感型コントローラーに対応したタイトルを選出するなど、導入においての工夫などが他の自治体からも大きく注目を集めました。

茨城県の取り組み事例

茨城県は全国の自治体のなかでも比較的早い段階でeスポーツを活用した取り組みを開始した自治体として知られています。

1.【地方創成】全国都道府県対抗eスポーツ選手権

例年、都道府県持ち回りで開催される国内最大のスポーツ大会である国民体育大会(通称:国体)。2019年に茨城県で開催された際に初めて行われたのが全国都道府県対抗eスポーツ選手権でした。

同大会は文化プログラムの一環として開催されましたが、全国から下は8歳、上は40代の選手約600人が参加し、eスポーツの知名度向上に大きく貢献しました。

その後、全国都道府県対抗eスポーツ選手権は例年開催されることとなり、2025年大会は滋賀県での開催が決定しています。

2.【産業の活性化】いばらきeスポーツ産業創造プロジェクト

茨城県内の産業とeスポーツの盛り上がりをマッチングさせ、産業の発展や地域創成を促すことを目的としたプロジェクトです。令和2年から始まり、茨城県内のさまざまな産業と力を合わせて多くのeスポーツイベントを開催してきました。

eスポーツに関連した新たなビジネスの創出や大規模大会の誘致などを目的に活動している同プロジェクトは、全国の自治体のみならず日本eスポーツ連合からも一目置かれています。

埼玉県の取り組み事例

埼玉県では積極的なeスポーツの普及、推進に力を入れています。自治体だけでなくプロのeスポーツ選手の力を借りるなど、専門的な知識を持つ人材を積極的に雇用し、地域住民にeスポーツの魅力を発信しています。

1.【地域交流】埼玉県スポーツフェスティバル2022in熊谷eスポーツ大会

県民スポーツの日を普及するために広報として開催されている県独自のスポーツイベント・埼玉県スポーツフェスティバル。2022年に開催された同イベントでは6名のプロeスポーツ選手によるトーナメントマッチが繰り広げられ会場を大いに盛り上げました。

2.【eスポーツの普及・地域創成】埼玉eスポーツトレーニングキャンプ2024Spring

埼玉県ではプロeスポーツチーム「FAV gaming」によるeスポーツトレーニングキャンプを開催しました。高校生を対象としたイベントでしたが、学校関係者、企業関係者など、eスポーツに関心を持つ人向けのセミナーなども同時に実施し、eスポーツの普及や地域創成を促すイベントとして成功させました。

神奈川県の取り組み事例

神奈川県では徐々にeスポーツを活用した取り組みが実施されるようになってきており、eスポーツに関する意見交換会や情報窓口の設置など、今後の活用のためのアクションが始まっています。

大きなきっかけとなったのは、世界的人気タイトルを扱った「ポケモンワールドチャンピオンシップス2023」が神奈川県横浜市で開催された事でしょう。自治体が関連するイベントではなかったものの、横浜市は大規模な経済波及効果を受け、eスポーツを自治体の取り組みとして活用する大きな足掛かりになったと考えられます。

eスポーツと観光事業のマッチングなどを目的に横須賀市や小田原市などの自治体では、さまざまなeスポーツを連動した観光事業が計画されているそうです。

群馬県の取り組み事例

群馬県では、全国の自治体のなかで唯一「eスポーツ・クリエイティブ推進課」を設置してeスポーツを活用した取り組みを行っています。群馬県をクリエイティブの発信源とすることを目標に、人材育成やイベントの主催、誘致、産業の創出などに取り組んでいる自治体です。

1.【地域ブランドの向上・産業育成】群馬県企業等対抗社会人eスポーツリーグ(GUNMA LEAGUE)

群馬県では、県内の企業に勤める社会人を対象にeスポーツ大会を開催しています。愛称であるGUNMA LEAGUEとして親しまれ、社員同士のコミュニケーションや他社間の交流の場、eスポーツを通した企業広告を兼ねるイベントとして大きな成果をあげました。

2.【eスポーツ関連企業の創出・雇用創出】「eスポーツ業界を知る~ロールモデルから見出す可能性~」セミナー

群馬県では就職氷河期世代の雇用の受け皿となる事業者に対してeスポーツ関連事業やeスポーツによる事業創出の事例、雇用例に関するオンラインセミナーを2024年に開催しています。

eスポーツ関連事業といると、どうしてもZ世代を中心とした若手人材の雇用に目を向けられがちです。しかし、eスポーツは本来エイジレスで年齢を問わず楽しめる競技であるため、関連する事業においても必ずしも若い人材を雇用しなければならない訳ではありません。

地域のeスポーツ推進や産業の創出だけでなく、eスポーツを通して雇用を創出するための効果的な事例として注目されました。

静岡県の取り組み事例

静岡県では高齢者支援の一環として2024年よりeスポーツ体験教室を実施しています。対象者を65歳以上とし、認知症予防や新たな趣味を見つけ活力を持ってもらうことを目的とした事業が始まりました。

その他、eスポーツサポート寺子屋、eスポーツルームの一般開放など、高齢者にとってeスポーツをより近くに感じて貰える取り組みが行われています。

富山県の取り組み事例

富山県では、eスポーツによる人口創出を目的とし、「eスポーツ関係人口創出事業補助金」として1市町村あたり取り組みに対して150万円の支援を行っています。

eスポーツを活用して県外からの集客を目的とした取り組みが対象となり、各市町村などでeスポーツ人材の育成やイベント・プロチームの誘致などが積極的に行われています。

大阪府の取り組み事例

大阪府では、eスポーツに関連した情報交換や意見交換を積極的に行い府内で面的にeスポーツの取り組みを広げることを目的とした大阪eスポーツラウンドテーブルという組織を発足しました。

大阪万博におけるeスポーツのイベントなども同組織で議論が交わされ、業種の垣根を越えて連携する新たな組織体制で今後どのような取り組みを行っていけるのかに期待の声が寄せられています。

自治体の取り組みにeスポーツを活用するうえでの課題

今回紹介していない自治体のなかにもeスポーツを取り組みに活用している自治体が多くあります。一方で、eスポーツに明確なメリットがあると分かっていても導入が進まない自治体があることも事実です。

最後に自治体の取り組みにeスポーツを活用するうえでの課題について紹介します。

指導人材・人員について

eスポーツは歴史が浅く日本での競技人口は増加傾向にあるもののZ世代を中心とした若い世代が多くを占めています。そのため、自治体で何らかの取り組みを検討したとしても、なかなか指導人材やeスポーツについての専門的な知識を持つ人員を確保できないことが大きな課題となっています。

今後eスポーツ市場がますます拡大していくことを考えると、eスポーツの知識を持っている人材やeスポーツ経験のある人材は需要を高めていくことも考えられるでしょう。

予算について

eスポーツを導入するにあたり、機材の購入やイベントの誘致など予算面での課題も見受けられます。特に、高齢者向けのeスポーツ教室などを行う際に「機器まで購入して事業を始めたとして、本当に利用者が増えるのか?」など、eスポーツの周知が追い付いていないことから、効果予測ができず暗礁に乗り上げるケースも少なくありません。

近年、自治体のeスポーツ導入事例が多く見受けられるようになり、効果予測に関するデータも収集しやすくなってきました。今後、予算の算出や効果の試算などもより簡易的になっていくことから、予算に関する課題が徐々に薄れていく可能性が期待できるでしょう。

自治体の取り組みにeスポーツを

eスポーツは年齢や性別など関係なく平等な条件で競技に挑む事ができるスポーツです。それゆえ、自治体の取り組みに活かすことで、集客効果や経済効果、福祉支援効果など多くのメリットが期待できるでしょう。

あなたの住む自治体でeスポーツに関するどのような事業が行われているのか、一度チェックしてみてはいかがでしょうか。