娯楽として捉えられがちなデジタルゲームが、教育現場で注目されていることをご存知でしょうか。ゲームから得られる学習効果に着目し、教育に活用する「ゲーミフィケーション」の普及が広まっています。
今回は、ゲームを教育に活用するメリットやデメリット、最新のゲーミフィケーションについて、教育現場におけるゲーム教育事例などを分かりやすく解説します。
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最新のゲーム学習「ゲーミフィケーション」とは

教育に良いゲームと言えば、カードゲームやボードゲームなどを連想する人が多いでしょう。しかし、近年デジタルゲームによる学習効果が注目を集めています。
Nintendo SwitchやPlayStation、スマホ・タブレットのアプリゲームなど、一見遊んでいるだけのように見えるものからも、学びに繋がるものが少なくありません。
「ゲーミフィケーション」とは、ゲームにおけるポジティブな要素を教育や仕事などに取り入れることから生まれた造語です。
海外では既にゲーミフィケーションによる学習効果に注目し、教育現場にゲームを取り入れる施策が行われています。日本でも、徐々にゲーミフィケーションが広まっており、これからの子供の教育において、ゲームはとても重要なキーアイテムになることが予想できるでしょう。
ゲームを教育に取り入れるメリット5つ

ゲームを教育に取り入れるメリットについて詳しく解説します。
メリット1.子供のやる気を引き出す
普段勉強に対して意欲的な感情を持たない子供ほど、ゲーミフィケーションを用いた教育に興味を持つ傾向ガあります。「勉強は嫌いだけど、ゲームならやりたい」という単純な動機ですが、結果として学習に自発的に取り組めるようになることがゲーム教育の大きなメリットです。
メリット2.ゲームそのものの学習効果を得られる
ゲームの中には、ストーリーや仕様などにそもそも学習効果が付随しているものも少なくありません。例えば、中国史や日本史などを題材にしたゲームで、偉人や歴史を学んだという声が多く聞かれます。
メリット3.全体像を想像する力が養われる
ゲームでは、現実では不可能な角度から全体像を確認することができます。視点を切り替え俯瞰で確認しながらゲームをプレイすることで、全体像に対する理解が深まります。
全体像を想像する力が養われることで、現実でも視界に映る一面から見えない部分を想像できるようになるでしょう。
メリット4.安全な環境で体験学習ができる
現代のゲームは、リアルを追求したサウンドやグラフィックが魅力です。そのため、シュミレーションゲームでは、室内の安全な環境でリアルな体験ができます。
戦闘ものなど以外にも、医療、乗り物の操縦、育成など、さまざまなジャンルでの体験学習が可能です。
メリット5.失敗を恐れずに試行錯誤できる
ゲームでは、失敗してしまっても失うものがありません。そのため、何度でも失敗を繰り返し、望む結果を得るための試行錯誤ができます。
トライ&エラーを繰り返して望む結果を求める考え方は、学習にも通じる部分が多くあります。現実でも、失敗をおそれずに挑戦できる感覚を養うことに繋がる効果が期待できます。
ゲーム学習に関するデータ・研究

ここではゲーム学習に関するデータ・研究について紹介します。これらを知ることで、ゲーム学習が決して「感覚的に」「なんとなく」良いものだと思われているのではなく、データ・研究に基づく「確かなもの」であることが分かります。
ゲーム学習の理解度向上に関する研究
中央情報教育研究所の報告書では、ゲームソフトを活用した学習が学習者の理解度を高める効果があると示されています。具体的には、ゲームのストーリー性やインタラクティブな要素が学習者の興味を引き、理解を深める要因となっています。
「ゲーム・ソフトは絵や音声を入れてゲーム・ストーリーを理解させる学習提示情報と、学習者がゲームの主人公となって学ぶ方式による学習制御の二つの要素で成り立っている。」
このような構造により、学習者は主体的に学習に取り組むことができ、理解度の向上が期待されます。
参照:財団法人日本情報処理開発協会中央情報教育研究所・情報処理教育 システム・エンジニアの育成に関する調査研究報告書
ゲーミフィケーションと学習継続率の関係
東京大学のLudix Labでは、語学学習アプリにおけるゲーミフィケーション要素と学習継続率の関係についての研究が進められています。この研究では、ゲーム要素を取り入れることで学習者のモチベーションが向上し、学習の継続率が高まることが示唆されています。
「語学学習アプリのゲーミフィケーション要素と学習継続率の関係について研究計画を発表されました。」
このような研究は、ゲーム学習が学習意欲の向上に寄与する可能性を示しています。
運動への興味促進と学習効果向上
神奈川県の小学校では、鬼遊びを取り入れた体育の授業を通じて、子どもたちの身体的な巧緻性や協調性を育む取り組みが行われています。この実践では、ゲーム要素を取り入れることで、子どもたちの運動への興味を引き出し、学習効果を高めることが確認されています。
「ルールや場を工夫することにより、体を動かすことの楽しさを十分に味わいながら、この時期に必要な巧みに動ける力を伸ばしていく学習指導法を構築していくことを目的として、本主題を設定した。」
このような実践例は、ゲーム学習が教育現場で効果的に活用されていることを示しています。
参照:学校体育長期研修研究報告
ゲームを教育に取り入れるデメリット

ゲームを教育に取り入れるメリットは多くありますが、反対にデメリットになる事もあります。
ゲーミフィケーションによる学習効果は、通常の学習意欲が低い子供ほど有効だと言われています。そのため、元から高い学習意欲を持っている子供の場合、ゲームを教育に取り入れることで集中力が低下したり学習意欲が減退したりしてしまう可能性があります。
また、全ての子供がゲームを楽しいものだと思う訳ではない点も理解しておくことが大切です。前提としてゲームを面白いと感じない子供に対して、ゲーミフィケーションは効果を発揮しにくいでしょう。
ゲーム学習の事例

日本でもゲームを使った教育プログラムが実施されています。続いては、実際に行われているゲーム教育の実例について紹介します。
桃太郎電鉄(桃鉄)を活用した教育事例
2023年1月に株式会社コナミデジタルエンタテイメントからリリースが発表された「桃太郎電鉄 教育版Lite―日本っておもしろい─」は、文部科学省からも学習教材として認められたゲームです。
全国の都道府県をすごろくで巡る同ゲームは、地名の理解を促すだけではありません。その土地の特産物や駅名の読み方や特徴に加え、収益を競う仕様によって収益率について学ぶことも可能です。
教育版では、通常版でゲームを盛り上げる「貧乏神」はカットされ、収益率の変動が大きくなりすぎないよう教育仕様に調整されています。
実際に、授業として桃太郎電鉄をプレイする学校も出てきており、ゲーミフィケーションを通して地域の特産物についての発表や、収益率についてディスカッションするなど高い学習効果が報告されています。
参考:教育家庭新聞:「桃鉄 教育版」導入校が12,000校超に 今春よりフリースクールなどへの提供も開始
Minecraft(マインクラフト)を活用した教育事例
Minecraft(マインクラフト)は2009年にリリースされたサンドボックスビデオゲームです。PC、Nintendo Switch、PlayStation、スマホアプリなど、さまざまなプラットフォームで普及している人気ゲームと言えます。
素材の採掘、建造物の創造、スイッチセンサーなどをもちいた自動回路の作成など、さまざまな遊び方ができることから、プログラミング分野への活用が注目されています。
実際に、2015年に総務省が公募を行った「ICTドリームスクール実践モデル」に採用された日本マイクロソフトでは、小学生を対象にマインクラフトを用いたプログラミング授業を行いました。現在でも、マインクラフトを教材として扱うプログラミング教室が増えており、子供達は身近なゲームから学びを得ています。
参照:総務省・教育版マインクラフトを活用したプログラミング的思考学習の推進
効果的なゲーム教育を実践するポイント

ゲーム教育は、さまざまなメリットも多い一方、活用方法を誤ると深刻なデメリットが発生するリスクもあります。教育にゲームを活用する場合、以下の点を押さえておく必要があるでしょう。
目的を決める
ゲームを教育に活用する際に、最も避けたいのは「目的もなくゲームを続けること」です。
例えば、マインクラフトでプログラミングを学ぼうと思っても、学習の目的を決めずにゲームをプレイし始めてしまうと、プログラミングとはかけ離れたプレイを続ける「娯楽の時間」となってしまうリスクが高いでしょう。
ゲーム教育における目標を明確に示し、目標を達成するためにゲームをプレイすることが大切です。
目的・目標を決めることの重要性は下記でより詳しく解説しています。こちらも併せてご覧ください。
ゲームの上達が早い人の特徴を解説!ゲームセンスを鍛えるには?
制限時間を設ける
ゲーム教育のメリットのひとつとして、失敗を恐れずに何度でも挑戦できることが挙げられます。しかし、時間は有限であるため無差別に失敗を繰り返してしまえば、他分野における勉強時間や生活を圧迫してしまうでしょう。
そのため、ゲームを教育に活用する際には制限時間を設けることが大切です。制限時間内に目標を達成するというルールを設けることで、高い学習効果が期待できます。
制限時間設定の重要性は下記でも詳しく解説しています。こちらも併せてご覧ください。
ゲームが子供に与える6つの影響!上手く付き合うための具体的ルール例も紹介
海外のSTEAM教育では既にゲームが活用されている

STEAM教育とは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術)、Mathematics(数学)を総合的に学習することを指す造語です。
幼少期からSTEAM教育を実践することで、世界に通用する優秀な人材を育成するため、先進国では当たり前のように教育プログラムに含まれています。
創造力や理論性、トライ&エラーを実践できる環境が求められるSTEAM教育はゲーミフィケーションとの相性が大変よく、国内外からSTEAM教育向けゲームタイトルが多数配信されています。
ゲーム学習の歴史と進化

ゲームと教育の関係は、実は今日始まった話ではありません。1980年代の教育用コンピューターソフトから始まり、家庭用ゲーム機との融合を経て、現在ではeスポーツやMinecraftを活用した最先端の授業まで、時代とともに進化を遂げてきました。ここでは、ゲーム学習がどのように発展してきたかを、年代別に振り返ってみましょう。
1980年代〜「教育ソフト」ブームとロゴ言語
1980年代、コンピューターが教育現場に導入され始めると同時に、教育用ソフトも数多く開発されました。その中でも代表的なのが、子ども向けプログラミング言語として知られる「ロゴ言語(Logo)」です。画面上のカメ(カーソル)を動かし、図形を描かせることで、論理的思考やアルゴリズム的感覚を自然と学べる教材として広まりました。
また、同時期には「ナンプレ」や「日本地図ゲーム」など、学習と娯楽を融合したPCソフトが家庭用パソコンや学校の情報教育で活用され、ゲームが「遊び」から「学び」へと一歩踏み出した時代でもあります。
2000年代〜家庭用ゲーム機と学習の融合
2000年代に入ると、ニンテンドーDSの登場により「教育的ゲーム」が一大ブームを巻き起こしました。代表的なのが『えいご漬け』や『脳を鍛える大人のDSトレーニング』といった、知育や学習にフォーカスしたタイトルです。
これらは、学習内容を反復しながら習得できる設計や、毎日継続するための工夫など、ゲーミフィケーション要素を自然に取り入れており、家庭内学習の一環として広く支持されました。学習ゲームという概念が、一般家庭にも浸透した時期といえるでしょう。
参照:大成会・話題の「脳トレ」って本当に効果あるの?最新の研究結果を紹介
2010年代以降〜Minecraftやeスポーツの教育利用
近年、ゲーム学習はさらに進化し、教育現場への本格的な導入が進んでいます。その代表格が『Minecraft Education Edition』です。プログラミング的思考・創造性・協働性を育む教材として、世界中の小中学校で正式にカリキュラムに取り入れられています。
また、日本でもeスポーツを部活動や授業に取り入れる高校や専門学校が増加。単なる「ゲーム」ではなく、チーム戦略・反射神経・コミュニケーション力といった21世紀型スキルの養成ツールとして認識され始めています。
なぜ今、ゲーム学習が注目されているのか?

かつては「遊び」として見られがちだったゲームですが、近年では「学びのツール」として大きく注目されるようになっています。その背景には、教育方針の変化や世代の特性、さらには社会情勢の影響など、複数の要因が絡み合っています。
特に注目すべきポイントは次の3つです。
- 「アクティブラーニング」や「STEAM教育」など教育方針の変化
- Z世代に合った“没入型学習”への需要の高まり
- コロナ禍で加速したオンライン教育とゲームとの親和性
これらを一つずつ紐解いていきましょう。
「アクティブラーニング」や「STEAM教育」など教育方針の変化
文部科学省が推進する「アクティブラーニング」や「探究学習」では、生徒が受け身ではなく、主体的に考え、協働しながら問題を解決する能力が求められています。また、理数教育や創造性、技術との融合を重視した「STEAM教育」の普及により、学び方そのものが多様化してきました。
ゲーム学習はこうした教育の方向性と相性がよく、課題解決・創造・コミュニケーションといった力を自然に養えるため、教育現場でも注目されています。
参照:文部科学省・STEAM教育等の各教科等横断的な学習の推進について
Z世代に合った「没入型学習」への需要
Z世代(1990年代後半〜2010年代生まれ)は、スマホやSNS、YouTubeなど「デジタル体験」を日常的に享受して育った世代です。紙と鉛筆の一方通行的な学びよりも、体験的・参加型の学習スタイルを好む傾向があります。
その点、ゲームは「自ら操作して試す」ことが前提のため、まさにZ世代の感覚にフィットします。彼らが「面白い」と感じる形で学びをデザインする上で、ゲーム学習は非常に効果的な手法です。
コロナ禍でのオンライン教育の流れとゲームの相性
2020年以降の新型コロナウイルス感染拡大により、教育現場ではオンライン授業の導入が急速に進みました。その過程で、ただ教科書を画面に映すだけでは不十分だという課題も浮き彫りになりました。
このような中で、ゲーム型の学習プログラムやクイズツール、仮想空間を活用した教育手法が再評価されるようになりました。遠隔でも直感的に参加でき、インタラクティブな学びが可能なゲームは、オンライン教育との親和性が高いと言えます。
ゲームを「習い事」にする時代が到来

日本で初めて家庭用テレビゲーム機が開発されたのは1975年でした。常に最先端の技術を駆使して改良され続けたゲームでしたが、どうしても娯楽という枠を抜けず「ゲームばかりしていては勉強が疎かになる」など、教育に悪影響をもたらすイメージを払拭できずにいました。
しかし、近年eスポーツとしてゲームが国際的競技として認められ、プロeスポーツプレイヤーなど職業としても認められる存在になっています。世界ではeスポーツをプレイする人口が1億人を超えているとも言われており、今後益々eスポーツは盛り上がっていくことでしょう。
それに伴い、子供や保護者にとってもゲームの捉え方に変化が現れています。スポーツクラブや塾のように、専門講師からゲームを学ぶ時代がやってきました。スクールでゲームを学ぶ子供の多くは、目標を持ち、高いスキルを得るために真摯にゲームに取り組んでいます。
そんな子供の姿を見て「ゲームは遊び」という保護者は少ないでしょう。時代の移り変わりとともに、子供とゲームの在り方は転換期を迎えています。
まとめ
ゲームは今や教育に大きな影響を与えるコンテンツのひとつです。ゲーミフィケーションは今後ますます教育現場に浸透し、桃鉄やマインクラフト以外にも教材として扱われるゲームは増えていくことでしょう。
しかし、ただ子供にゲームを与えるだけで教育と関連付けることはできません。適切な運用、保護者の管理、指導などが求められます。
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